橋梁や鋼構造物の設計で必ず登場するのが「完全溶込み溶接(突合せ溶接)」の強度照査です。主桁の継手やガセットの接合など、母材と同等の強度が求められる重要部材で広く使われますが、いざ計算しようとすると「のど厚はどう取るのか」「引張とせん断が同時に効くときはどう照査するのか」で迷いやすい部分でもあります。この記事では、完全溶込み溶接の強度計算の考え方を、実務で使える順番に沿って整理します。
完全溶込み溶接とは
完全溶込み溶接は、開先(グルーブ)を設けた継手で、板厚の全断面にわたって溶着金属を完全に溶け込ませる溶接です。突合せ溶接とも呼ばれ、すみ肉溶接や部分溶込み溶接と区別されます。最大の特徴は、母材と同等以上の強度をもつ溶着金属を用いることを前提として、継手の許容応力度を母材と同じ値として扱える点にあります。
このため、引張・圧縮を受ける主要部材の継手では完全溶込み溶接が標準的に採用されます。一方で開先加工や品質管理(非破壊検査など)の手間がかかるため、せん断が主体で強度要求がそれほど高くない箇所には、施工性に優れるすみ肉溶接が使い分けられます。
強度計算の基本式
完全溶込み溶接の強度照査は、次の4ステップで進めます。記号は、板厚 t(mm)、有効長さ l(mm)、軸方向力 N(kN)、せん断力 Q(kN)とします。
① のど厚 a を決める
完全溶込み溶接の有効のど厚は、開先形状(V形・X形・K形・レ形)によらず母材の板厚 t と等しく取ります。板厚が異なる継手を接合する場合は、薄い方の板厚を採用します。すみ肉溶接のようにサイズから換算する必要がないのが、完全溶込み溶接の計算が比較的シンプルになる理由です。
a = t (完全溶込みのため、のど厚は板厚と同じ)
② 溶接有効断面積 A を求める
のど厚 a と有効長さ l の積が、荷重を負担する溶接有効断面積になります。有効長さは、欠陥が生じやすい始終端(クレーター部)を除いた、有効に働く溶接長さです。
A = a × l = t × l (mm²)

③ 応力度を計算する
溶接線に直角方向に作用する軸方向力からは引張・圧縮応力度σを、溶接線方向に作用するせん断力からはせん断応力度τを求めます。kN→N の単位換算(×1000)に注意してください。
σ = N / A (N/mm²)
τ = Q / A (N/mm²)
④ 許容応力度・合成応力で照査する
求めた応力度を、それぞれ許容引張・圧縮応力度σa、許容せん断応力度τaと比較します。完全溶込み溶接では、引張・圧縮に対しては母材と同じ値、せん断に対しては母材の値(基準強度Fに対しF/√3に相当する考え方)が用いられます。
σ ≦ σa かつ τ ≦ τa
引張とせん断が同時に作用する場合(合成応力の照査)
実務でつまずきやすいのが、軸方向力とせん断力が同時に作用するケースです。個別の照査(σ≦σa、τ≦τa)がそれぞれOKでも、両方が同時に効くと部材は厳しくなります。そこで、両者を組み合わせた合成応力の照査を併せて行います。
合成応力の照査式は、せん断ひずみエネルギー説に基づくもので、採用する設計基準によって次のような形で示されます。
(σ/σa)² + (τ/τa)² ≦ 1.2 ……(道路橋示方書の例)
√{ (σ/σa)² + (τ/τa)² } ≦ 1.1 ……(鋼鉄道橋の例)
個別照査が成立していても合成照査でNGになることがあるため、軸力とせん断が併存する継手では必ずこの照査をセットで行うのが鉄則です。
計算例(許容応力度設計法・SS400)
具体的な数値で流れを確認してみます。条件は次のとおりです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 鋼種 | SS400 |
| 板厚 t(=のど厚 a) | 12 mm |
| 溶接有効長さ l | 300 mm |
| 軸方向力 N(引張) | 200 kN |
| せん断力 Q | 80 kN |
| 許容引張・圧縮応力度 σa | 140 N/mm² |
| 許容せん断応力度 τa | 80 N/mm² |
順に計算すると、溶接有効断面積は A = 12 × 300 = 3,600 mm²。引張応力度は σ = 200×1000 / 3,600 ≒ 55.6 N/mm²、せん断応力度は τ = 80×1000 / 3,600 ≒ 22.2 N/mm² となります。
個別照査では σ=55.6 ≦ σa=140(OK)、τ=22.2 ≦ τa=80(OK)。合成照査は (55.6/140)² + (22.2/80)² ≒ 0.158 + 0.077 ≒ 0.235 ≦ 1.2(OK)となり、検定比は最大でも約0.24で十分に余裕がある結果です。
許容応力度設計法(ASD)と限界状態設計法(LSD)
溶接照査の方法は、採用する設計手法によって変わります。許容応力度設計法(ASD)は「応力度 ≦ 許容応力度」で確認する従来からの手法で、道路橋示方書(許容応力度設計法の体系)や国鉄時代の鋼鉄道橋設計標準などが該当します。
一方、近年の鉄道構造物等設計標準(令和6年版)などで採用される限界状態設計法(LSD)は、部材係数γb・構造物係数γi・材料係数γsといった部分安全係数を用い、「γi・設計断面力 / 設計耐力 ≦ 1.0」で照査します。完全溶込み溶接の設計耐力は Pjud =(fsyd・Σa・l)/ γb の形で算定します。入力する断面力を「荷重係数を考慮済みの設計値」として扱う点が、ASDとの大きな違いです。
どちらの手法を使うかは、対象構造物と発注者の設計要領によって決まります。同じ継手でも手法が変われば許容値・照査式・係数がすべて変わるため、必ず適用すべき基準を最初に確認しておくことが重要です。
計算ツールで自動照査する
ここまでの計算は、当サイトの「完全溶込み溶接強度照査ツール」を使えば、板厚・溶接長さ・荷重・鋼種を入力するだけで自動で照査できます。設計手法(ASD/LSD)と設計基準(道路・鉄道)を切り替えられ、開先形状の断面図や計算過程も表示されるので、検算や照査書の下書きにそのまま使えます。
手計算で考え方を理解したうえでツールを併用すると、入力ミスや単位換算の取り違えを防ぎながら、効率よく照査を進められます。
まとめ
完全溶込み溶接の強度計算は、①のど厚 a=板厚 t、②有効断面積 A=t×l、③応力度σ・τの算定、④許容応力度と合成応力での照査、という流れが基本です。引張・圧縮では母材と同じ許容応力度を使える一方、軸力とせん断が同時に作用する場合は合成応力の照査を忘れないことがポイントになります。実務では採用する設計手法(ASD/LSD)と最新の基準原本を必ず確認し、材料試験や非破壊検査の結果と合わせて技術者が最終判断を行ってください。
※本記事は設計の概要理解を目的としたものです。具体的な数値・照査方法は、適用する設計基準の原本および発注者の設計要領を必ずご確認ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。