「転倒・滑動・支持力って、それぞれ何を確認しているのか正直よくわからない…」
設計実務に入りたての頃、安定計算の計算書を見てそう感じた方は多いのではないでしょうか。式の形は覚えても、なぜその照査が必要なのかがわかっていないと、数値の意味を見落としたまま計算を進めてしまいます。
この記事では、直接基礎の安定計算で行う転倒・滑動・地盤反力・鉛直支持力の4つの照査について、それぞれの物理的な意味から計算の考え方まで、実務で使える知識としてわかりやすく解説します。
直接基礎とは?
直接基礎とは、フーチング(底版)を直接地盤に接触させて、上部構造からの荷重を地盤に伝える基礎形式です。杭を使わずに地盤の支持力で構造物を支えるため、「浅い基礎」とも呼ばれます。
適用できる条件は主に以下の2つです。
- 良質な地盤が比較的浅い位置にある場合(N値が大きい砂礫層・岩盤など)
- 根入れ深さを確保できる場合(凍結深度や洗掘深さを考慮)
一方、地表面から深い位置にしか支持層がない場合や、軟弱地盤では杭基礎やケーソン基礎を検討することになります。
安定計算で照査する4つの項目
道路橋示方書(H24)では、直接基礎の普通設計において以下の4つの安定照査を行うことが定められています。
① 転倒に対する照査
転倒照査では、基礎底面に作用する合力の偏心量 e が許容値以下であることを確認します。
水平力やモーメントが作用すると、鉛直力の合力がフーチングの中心からずれます。このずれ量が偏心量 e です。偏心量が大きくなりすぎると、フーチングの一部が地盤から浮き上がり、転倒の危険が生じます。
許容偏心量 ea は次のように設定されています。
| 荷重状態 | 許容偏心量 ea |
|---|---|
| 常 時 | B / 6 |
| 風時・地震時 | B / 3 |
ここで B は基礎幅(作用力方向)です。常時は B/6、地震時はその2倍の B/3 まで許容されます。地震時に許容値を緩和しているのは、地震力は一時的な荷重であるためです。
判定:e ≦ ea → OK
② 滑動に対する照査
滑動照査では、基礎底面の摩擦抵抗力が水平力に対して十分な安全率を持つことを確認します。
水平力 H に対して、フーチング底面と地盤の間の摩擦力が滑動を防ぎます。摩擦力は鉛直力 V に底面摩擦係数 tanφ を乗じて求めます。
fs = V × tanφ / H
この安全率 fs が必要安全率 fa 以上であれば OK です。
| 荷重状態 | 必要安全率 fa |
|---|---|
| 常 時 | 1.50 |
| 風時・地震時 | 1.20 |
判定:fs ≧ fa → OK
③ 地盤反力に対する照査
地盤反力照査では、基礎底面に生じる最大地盤反力度 qmax が許容地盤反力度 qa 以下であることを確認します。
偏心量 e の大きさによって地盤反力の分布形状が変わります。
- e ≦ B/6 のとき(台形分布):フーチング全面が地盤と接触している状態。qmax = V/(D·B) + 6M/(D·B²) で求めます。
- e > B/6 のとき(三角形分布):フーチングの一部が浮き上がった状態。qmax = 2V / (3·L·(B/2 – e)) で求めます。
許容地盤反力度 qa は地盤種別によって異なります(道路橋示方書 表-解10.3.1)。
| 地盤の種類 | 許容地盤反力度 qa(常時) |
|---|---|
| 砂れき地盤 | 700 kN/m² |
| 砂 地 盤 | 400 kN/m² |
| 粘性土地盤 | 200 kN/m² |
判定:qmax ≦ qa → OK
④ 鉛直支持力に対する照査
鉛直支持力照査では、作用する鉛直力 V が地盤の許容鉛直支持力 Qa 以下であることを確認します。これが直接基礎の設計で最も重要な照査です。
許容鉛直支持力 Qa は、地盤の極限支持力 Qu を安全率 n で除して求めます。
Qa = Qu / n
安全率 n は荷重状態によって異なります。
| 荷重状態 | 安全率 n |
|---|---|
| 常 時 | 3.0 |
| 風時・地震時 | 2.0 |
極限支持力 Qu は、道路橋示方書の式(10.3.1)を用いて以下のように計算します。
Qu = Ae × { α·κ·c·Nc·Sc + κ·q·Nq·Sq + (1/2)·γ1·β·Be·Nγ·Sγ }
式の中に含まれる Nc・Nq・Nγ は支持力係数と呼ばれ、内部摩擦角 φ と荷重の傾斜 tanθ から求めます。また α・β は基礎の形状係数、κ は根入れ効果係数です。
判定:V ≦ Qa → OK
荷重ケースの考え方
安定計算は複数の荷重ケースで行います。道路橋示方書では主に常時・風時・地震時の3ケースを照査します。
地震時や風時には許容値を緩和できる理由は、これらの荷重が一時的なものであり、常時のように長期間継続しないためです。安全率を下げることで経済的な設計が可能になります。
なお、鉄道構造物では常時・一時・地震時(死荷重時)・地震時(列車荷重時)の4ケースで照査します。道路基準と鉄道基準の詳しい違いについては、こちらの記事で解説しています。
計算ツールで確認してみよう
この記事で解説した4つの照査を、ブラウザ上で無料で計算できるツールを公開しています。道路橋示方書H24・鉄道建造物設計標準の両方に対応しており、計算過程もすべて確認できます。
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まとめ
直接基礎の安定計算では、以下の4つの照査を行います。
- 転倒照査:偏心量 e が許容偏心量 ea 以下か確認(常時:B/6)
- 滑動照査:滑動安全率 fs が必要安全率 fa 以上か確認(常時:1.50)
- 地盤反力照査:最大地盤反力度 qmax が許容値 qa 以下か確認
- 鉛直支持力照査:作用鉛直力 V が許容支持力 Qa 以下か確認(常時:安全率3.0)
設計基準(道路・鉄道)によって安全率や荷重ケースの数が異なるため、適用する基準を確認したうえで計算を進めることが重要です。