鉄骨や鋼構造物の接合で、最も多く使われるのが「隅肉溶接(すみにくようせつ)」です。ガセットプレートの取り付け、ブラケット、母材どうしの取り合いなど、現場のいたるところで登場します。
ところが図面では「すみ肉6」となんとなく指定され、その脚長で本当に荷重を支えられるのかを計算しているケースは意外と多くありません。この記事では、学生・若手技術者が「のど厚」から「許容せん断耐力」までを根拠をもって説明できるよう、基礎から順に整理します。最後に、手計算を補助してくれる無料の計算ツールも紹介します。
1. 隅肉溶接とは?まず押さえる3つの寸法(脚長・サイズ・のど厚)

隅肉溶接とは、直角や重なりで接する2つの母材の隅に、三角形状の溶着金属(ビード)を盛って接合する方法です。突合せ溶接のように開先(かいさき)加工が不要なため施工しやすく、コストも抑えられます。JIS Z 3001(溶接用語)では、重ね継手・T継手・角継手の3形状が隅肉溶接に該当します。
強度を語るうえで欠かせないのが、次の3つの寸法です。混同しやすいので、ここで一度整理しておきましょう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 脚長(きゃくちょう) | ビード断面の直角三角形の「2辺の長さ」。母材表面から溶接止端までの距離。図面の「すみ肉6」はこの寸法。 |
| サイズ | 等脚(縦横の脚長が等しい)なら脚長=サイズ。不等脚なら短い方の脚長をサイズとする(JIS Z 3021)。 |
| のど厚 | 三角形に内接する高さ。最も薄い部分で、強度計算に実際に使う寸法。等脚なら のど厚 ≒ 0.7 × サイズ。 |
ポイントは、図面に書く「脚長(サイズ)」と、強度計算で使う「のど厚」は別物だということです。ここを取り違えると、後述する重大な計算ミスにつながります。
2. なぜ「のど厚」で強度が決まるのか(計算の考え方)
隅肉溶接のビード断面は、直角二等辺三角形とみなせます。荷重がかかったとき、この三角形が最も薄くなる断面(=のど断面)で壊れます。だからこそ、いちばん薄い「のど厚」が強度を支配するのです。
等脚すみ肉では、サイズ s とのど厚 a の関係は幾何学的に次のとおりです。
a = s ÷ √2 ≒ 0.707 × s
実務では端数を丸めて a = 0.7 × s として扱います。建築・土木の鋼構造設計では 0.7、機械設計では 0.707 を使うのが一般的です。たとえばサイズ6mmなら、のど厚は 0.7 × 6 = 4.2mm になります。
もう一つ重要なのが「有効溶接長」です。溶接の始端と終端はクレーター(くぼみ)ができやすく欠陥を含みやすいため、全長から両端をサイズ分ずつ差し引きます。
有効溶接長 Le = L − 2s
さらに、有効長さが短すぎる溶接は急冷で割れやすく耐力も不安定なため、鋼構造設計規準では「サイズの10倍以上、かつ40mm以上」とすることが求められます。点付けのような短い溶接を構造部に使ってはいけません。
なお隅肉溶接は、引張・圧縮・せん断のどの向きの荷重でも、最終的に「のど断面のせん断破壊」として安全側に評価するのが基本です。
3. 強度計算の基本式と具体的な数値例(SS400・SM490で計算)
隅肉溶接継手の許容せん断耐力は、次の式で求めます。
許容せん断耐力 Qa = のど厚 a × 有効溶接長 Le × 許容せん断応力度 fs ×(溶接線の本数)
鋼種ごとの基準強度 F と、そこから求まる許容せん断応力度は次のとおりです(板厚40mm以下)。許容せん断応力度は fs = F ÷ (1.5 × √3) で計算し、短期はその1.5倍です。
| 鋼種 | 基準強度 F (N/mm²) | 許容せん断応力度 長期 (N/mm²) | 同 短期 (N/mm²) |
|---|---|---|---|
| SS400 | 235 | 約90 | 約135 |
| SM490 | 325 | 約125 | 約188 |
計算例:SS400・両面すみ肉溶接
条件:鋼種SS400、サイズ s=6mm、片側の溶接長 L=200mm、両面(溶接線2本)、長期荷重とします。
- のど厚:
a = 0.7 × 6 = 4.2 mm - 有効溶接長:
Le = 200 − 2 × 6 = 188 mm(10s=60mm・40mm以上を満たす) - 有効のど断面積(2本分):
4.2 × 188 × 2 = 1,579 mm² - 許容せん断応力度(長期):
fs = 90 N/mm² - 許容せん断耐力:
Qa = 1,579 × 90 ≒ 142,000 N ≒ 142 kN
同じ寸法でも鋼種をSM490(fs=125)に変えると、Qa ≒ 1,579 × 125 ≒ 197 kN となり、約1.4倍の耐力が得られます。作用せん断力がこの Qa 以下であれば「OK」、超えるならサイズを大きくするか溶接長を延ばします。
計算式の根拠(参考図書)
本記事の式・係数・規定は、次の基準・図書に基づいています。論文や報告書に引用する際は、お手持ちの版の該当条項・ページを確認のうえ記載してください(ページ番号は版・刷によって異なります)。
- 日本建築学会『鋼構造設計規準―許容応力度設計法―』(2005年改定):のど厚(サイズの0.7倍)、有効溶接長、溶接継目の許容応力度の規定。
- 日本道路協会『道路橋示方書・同解説 Ⅱ鋼橋・鋼部材編』(平成29年):土木(橋梁)における溶接継手の許容応力度。
- 日本溶接協会(JWES)の溶接管理技術者向けテキスト:すみ肉・突合せ継手の強度計算例(計算手順の参考)。
4. よくある失敗パターン【注意】
計算式は単純ですが、つまずくポイントは決まっています。代表的な失敗を挙げます。
失敗1:のど厚と脚長を取り違える
サイズ6mmをそのまま断面に使うと、本来4.2mmで計算すべきところを6mmで計算してしまい、耐力を約1.4倍に過大評価します。計算に使うのは必ず「のど厚(0.7×サイズ)」です。
失敗2:有効長さを全長のまま使う
始端・終端のクレーター分(両端で2s)を控除し忘れると、短い溶接ほど耐力を大きく見積もりすぎます。Le = L − 2sを徹底しましょう。
失敗3:短すぎる溶接・点付け
有効長さが「サイズの10倍未満」または「40mm未満」の溶接は、強度部材に使えません。割れや早期破断の原因になります。
失敗4:適用範囲外の荷重に簡易式を流用する
このせん断の式は、軸力中心の継手を安全側に評価するためのものです。曲げ・ねじり・組合せ荷重が大きい継手や、突合せ・部分溶込み溶接は、別途、断面係数や極断面係数を用いた検討が必要です。
5. 計算ツールの使いどころ(doboku-navi 隅肉溶接計算ツール)
手計算の考え方が分かったら、検算や概算には計算ツールが便利です。土木設計Naviの「隅肉溶接計算ツール」は、鋼種・サイズ(脚長)・溶接長などを入力すると、のど厚・有効のど断面積・許容せん断耐力を自動で算出し、作用せん断力と比べて合否を判定してくれます。
使いどころの例:
- 図面のすみ肉サイズが妥当か、その場でざっと確認したいとき
- 手計算の答え合わせ(桁ミス・係数ミスの防止)
- サイズや溶接長を変えたときの、耐力の変化を素早く比較したいとき
ただし、ツールはあくまで「考え方を理解した人が使う補助」です。入力した鋼種や荷重条件が前提に合っているか、適用範囲(せん断中心の継手か)を自分で判断できることが大切です。まず手で一度計算し、その後ツールで確かめる――この順番が、若手のうちに実力をつける近道です。
6. まとめ
- 隅肉溶接の3寸法のうち、強度計算に使うのは「のど厚(0.7×サイズ)」。脚長と混同しない。
- 有効溶接長は
Le = L − 2s。さらに「サイズの10倍以上かつ40mm以上」が必要。 - 許容せん断耐力
Qa = のど厚 × 有効溶接長 × 許容せん断応力度 ×(本数)。 - SS400で長期 fs≒90、SM490で≒125 N/mm²。鋼種を上げると耐力も上がる。
- 式の根拠は『鋼構造設計規準』『道路橋示方書(鋼橋・鋼部材編)』。論文では該当版・条項を明記する。
- 計算ツールは手計算の検算・概算に活用し、適用範囲は自分で判断する。