水路の流量計算といえばマニング式ですが、満管で圧力がかかっている管路にマニング式をそのまま当てはめるのは適切ではありません。上水道の配水管や下水道の圧送管では、別の公式を使うのが実務の標準です。この記事では、開水路と管路(圧力管)が水理的に何を境に分かれるのか、そして圧力管でどの公式をどう使うのかを、実務で判断できるレベルまで整理して解説します。
開水路と管路(圧力管)の違い
両者を分ける決定的な違いは、自由水面(大気に接する水面)があるかどうかの一点です。
開水路では水面が大気に接しているため、水面そのものがエネルギーの高さを表します。一方、圧力管は管内が水で満たされ、大気に接する面がありません。管内の水は大気圧より高い圧力を持ち、その圧力を含めたエネルギーの高さ(動水勾配線)で流れが決まります。
| 項目 | 開水路(自然流下) | 管路(圧力管) |
|---|---|---|
| 自由水面 | あり | なし(満管) |
| 流れの原動力 | 重力(水路勾配) | 圧力差+高低差 |
| 勾配の意味 | 水路床の勾配 | 動水勾配(損失水頭÷管長) |
| 主に使う公式 | マニング式・クッター式 | ヘーゼン・ウィリアムス公式 |
| 代表例 | 側溝・U字溝・下水道汚水管 | 上水道配水管・下水道圧送管 |
注意したいのは、円形管だから圧力管、とは限らないという点です。下水道の汚水管は円形管ですが、管内に空気があり自由水面を持つため、水理的には開水路として扱います。開水路側の計算についてはマニング式とは?流量計算の基本をわかりやすく解説で詳しく扱っています。
自然流下の円形管・ボックス・U型水路の流量はこちら
自然流下か圧送か|使う公式が変わる
実務での使い分けはシンプルで、流し方が「自然流下」か「ポンプ圧送」かで判断します。日本ダクタイル鉄管協会の設計資料でも、下水道管路の流量計算について、自然流下方式ではマニング公式を、圧送方式ではヘーゼン・ウィリアムス公式を用いるとされています。
なぜ公式が変わるのか
マニング公式は粗面領域の流れに精度が高いのに対し、ヘーゼン・ウィリアムス公式は粗滑遷移領域の流れに適しています。農林水産省のパイプライン基準では、一般的なパイプラインの設計条件(管種・口径・設計流速)は、ほとんどがヘーゼン・ウィリアムス公式の適用領域に入ると整理されています。
圧力管の流量計算式|ヘーゼン・ウィリアムス公式
管径75mm以上の鋳鉄管・鋼管の摩擦損失水頭には、ヘーゼン・ウィリアムス公式が一般に使われます。流量を直接求める形は次のとおりです。
ヘーゼン・ウィリアムス公式(流量式)
Q = 0.27853 × C × D2.63 × I0.54
Q:流量(m³/s)/C:流速係数(-)/D:管内径(m)/I:動水勾配(-)
ここで最も重要なのが動水勾配 I の意味です。開水路の勾配とは違い、管路の I は「損失水頭を管長で割った値」を指します。
動水勾配と摩擦損失水頭
I = hf ÷ L
hf = 10.666 × C−1.85 × D−4.87 × Q1.85 × L
実務での使い方利用できる水位差から I を決め、必要な管径 D を逆算する
hf:摩擦損失水頭(m)/L:管路延長(m)/I:動水勾配(-) ※Iは千分率(‰)ではなく無次元で扱います
設計の流れとしては、始点と終点の水位差から使える損失水頭を求め、そこから動水勾配 I を設定し、必要流量を流せる管径を選定する、という順序になります。
流速係数C値の目安
ヘーゼン・ウィリアムス公式の精度は、C値の設定でほぼ決まります。C値は管の内面の滑らかさを表し、管種・内面処理・経過年数によって変わります。
| 条件 | C値の目安 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 下水道用ダクタイル鉄管(圧送) | 110 | 日本ダクタイル鉄管協会 |
| パイプライン基準(一般) | 130 | 土地改良事業計画設計基準 |
| 呼び径150以下の管路 | 140 | 土地改良事業計画設計基準 |
| エポキシ樹脂粉体塗装管 | 150以上 | 協会試験による実測値 |
特に押さえておきたいのは、C値が大きいほど管内が滑らかで、損失水頭が小さくなるということです。日本ダクタイル鉄管協会の試験では、エポキシ樹脂粉体塗装管の摩擦損失水頭がモルタルライニング管の半分以下になったと報告されています。管種の選定が水理計算の結果を大きく左右する例といえます。
【注意】既設管を評価する場合、C値は新設時の値をそのまま使えません。内面にライニングが施されていない管では、通水年数や水質の影響でC値がかなり低下します。改良設計では実測や調査に基づく設定が必要です。
損失水頭は摩擦だけではない
ヘーゼン・ウィリアムス公式で求まるのは直管部の摩擦損失水頭だけです。実際の管路には曲がりや弁があり、そこでも水頭が失われます。
全損失水頭の構成
全損失水頭 = 摩擦損失水頭 + 各種損失水頭
各種損失水頭 h = f × v² ÷ 2g (f:損失係数/v:管内流速 m/s/g:重力加速度 9.8 m/s²)
対象:流入・流出・湾曲・断面変化・仕切弁・分岐 など
短い管路や曲がりの多い管路では、各種損失が全体の無視できない割合を占めます。ポンプ圧送の場合、ポンプの必要揚程は「実揚程+全損失水頭」で決まるため、各種損失の計上漏れはポンプ能力不足に直結します。
小口径の給水管はウエストン公式
宅地への給水管など小口径の管では、公式が変わります。実務上の使い分けは口径で区切られており、50mm以下はウエストン公式、75mm以上はヘーゼン・ウィリアムス公式を用いるのが一般的です。給水装置の設計に関わる場合は、この境界を意識しておく必要があります。
実務で気をつけたいポイント
| 項目 | 実務上の考え方 |
|---|---|
| 管内流速 | 速すぎると水撃圧や摩耗、遅すぎると滞留や沈殿の原因になる。圧送管では沈殿防止のため 0.6 m/s以上 を確保するのが一般的 |
| C値の統一 | 同一の管路系統では、管種ごとに公式を使い分けず、原則としてヘーゼン・ウィリアムス公式で統一して評価する |
| 水撃圧 | 圧力管では弁の急閉やポンプ停止による水撃(ウォーターハンマー)の検討が別途必要。管厚設計にも影響する |
まとめ
開水路と管路(圧力管)の分かれ目は自由水面の有無であり、実務上は「自然流下か圧送か」で使う公式を判断します。自然流下ならマニング式、圧送ならヘーゼン・ウィリアムス公式が基本です。
圧力管の計算では、動水勾配 I が水路勾配ではなく損失水頭÷管長を意味すること、そしてC値の設定が結果を大きく左右することの2点を押さえておけば、大きな間違いは避けられます。あわせて各種損失水頭の計上も忘れないようにしてください。
自然流下側の計算については、粗度係数とは?材料別の一覧表と選び方、クッター式とは?マニング式との違い、側溝・U字溝の流量計算もあわせてご覧ください。
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参考図書・出典
・日本水道協会「水道施設設計指針」(2012年版)
・農林水産省「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 設計『パイプライン』」(平成21年3月)
・日本ダクタイル鉄管協会「ダクタイル鉄管管路のてびき」(JDPA T 26)
・日本ダクタイル鉄管協会「下水道用ダクタイル鉄管管路のてびき」(JDPA T 46)
・日本下水道協会「下水道施設計画・設計指針と解説」