もたれ式擁壁の安定計算とは?転倒・滑動・地盤支持力の照査を解説

もたれ式擁壁は、背面の地山にもたれかけるように設置する経済的な擁壁形式で、道路の切土部や造成工事で広く採用されています。しかし「安定計算では具体的に何を確認すればよいのか」「判定基準の数値はどこから来ているのか」が整理されていないまま設計に入ると、手戻りの原因になります。この記事では、もたれ式擁壁の安定計算で行う転倒・滑動・地盤支持力の3つの照査について、計算式と判定基準を実務目線で解説します。

もたれ式擁壁とは?重力式擁壁との違い

もたれ式擁壁とは、背面の地山や盛土に壁体をもたれかけさせることで安定を保つ擁壁形式です。重力式擁壁が自重だけで自立するのに対し、もたれ式は背面地盤の支えを前提とするため、壁体断面を薄くできるのが最大の特徴です。コンクリート量を抑えられることから、比較的高い擁壁(一般に3〜8m程度)でも経済的に成立します。

前面勾配は1:0.3程度の急勾配、背面勾配は1:0.1程度のほぼ鉛直とするのが標準的な形状です。背面をわずかに傾ける(逆ころび)ことで、土圧の鉛直成分が壁体を安定させる方向に働きます。

前提条件

もたれ式擁壁は「地山が自立していること」が大前提です。軟弱地盤や、背面地盤自体にすべりの懸念がある箇所では成立しません。この場合は逆T型擁壁や補強土壁など、別形式の検討が必要になります。

安定計算で照査する3項目

日本道路協会「道路土工-擁壁工指針」では、擁壁の安定について次の3項目を照査することとされています。もたれ式擁壁の安定検討は、通常は重力式擁壁と同じ方法で行います。

照査項目確認する内容判定基準(常時)
① 転倒擁壁がつま先を軸に前へ回転しないかe ≦ B/6
② 滑動擁壁が水平方向に押し出されないかFs ≧ 1.5
③ 地盤支持力基礎地盤が接地圧に耐えられるかq1 ≦ qa

これら3つはいずれも「作用する力」と「抵抗できる力」の比較です。どれか1つでも満足しなければ断面変更が必要で、実務では底版幅B2を広げる、根入れを深くするといった対応をとります。

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安定計算の前提|クーロン土圧による土圧算定

3つの照査に入る前に、背面地盤から作用する土圧を求めます。擁壁設計では、壁面摩擦角δや地表面勾配βを考慮できるクーロン土圧理論が一般的に用いられます。

主働土圧合力の算定式

Pa = 1/2 × γe × H2 × Ka

Pa:主働土圧合力(kN/m)
γe:背面土の単位体積重量(kN/m³)
H:擁壁高さ(m)
Ka:主働土圧係数

主働土圧係数Kaは、内部摩擦角φ・壁面摩擦角δ・地表面勾配β・壁面勾配αから決まります。φが大きい良質な地盤ほどKaは小さくなり、土圧も小さくなります。

求めた土圧合力Paは底面からH/3の高さに作用し、壁面の法線からδだけ傾いた方向に働きます。これを水平成分Pah(滑動力)と鉛直成分Pav(抵抗力の一部)に分解して、以降の照査に用います。

① 転倒に対する照査

転倒照査は、擁壁のつま先を回転の支点として、転倒させようとするモーメントMoと、抵抗するモーメントMrを比較します。

転倒に対する照査

d = (Mr − Mo) ÷ ΣV
e = |B2/2 − d|

判定基準常時 e ≦ B2/6 / 地震時 e ≦ B2/3

d:つま先から合力作用位置までの距離(m)
e:底版中央からの偏心量(m)
ΣV:全鉛直力(kN/m)
Mr:抵抗モーメント
Mo:転倒モーメント

転倒モーメントMoは土圧水平成分Pahによるもの、抵抗モーメントMrは擁壁自重Wと土圧鉛直成分Pavによるものです。求めた偏心量eが底版幅B2の1/6以内であれば、転倒に対して安全と判定します。

なぜ B/6 なのか

e ≦ B/6は「ミドルサード」と呼ばれる条件です。合力が底版中央1/3の範囲に収まっていれば、底面の地盤反力が台形分布となり、底面全体が圧縮状態を保てます。これを外れると底面の一部が浮き上がり、地盤との離間が生じます。

② 滑動に対する照査

滑動照査は、土圧の水平成分によって擁壁が前方へ押し出されないかを確認します。抵抗するのは、底面に働く鉛直力と基礎地盤との摩擦力です。

滑動に対する照査

Fs = (W + Pav) × μ ÷ Pah

判定基準常時 Fs ≧ 1.5 / 地震時 Fs ≧ 1.2

Fs:滑動に対する安全率
W:擁壁自重(kN/m)
Pav:土圧鉛直成分(kN/m)
μ:底面摩擦係数
Pah:土圧水平成分(kN/m)

底面摩擦係数μは基礎地盤の種類によって異なり、砂質土でμ=0.6程度、粘性土ではこれより小さい値を用います。

安全率が不足する場合の対策は、底版幅の拡大が基本です。それでも足りない場合は、底面に突起(せん断キー)を設ける、底面に傾斜をつけるといった方法があります。ただし底面傾斜は基礎地盤が堅固であることが条件となります。

③ 地盤支持力に対する照査

擁壁の自重と土圧が基礎地盤に伝わる接地圧が、地盤の許容支持力以内に収まっているかを確認します。荷重は偏心しているため、前面側と背面側で反力度が異なります。

地盤支持力に対する照査

q1, q2 = ΣV / B2 × (1 ± 6e / B2)

判定基準最大反力度 q1 ≦ 許容支持力 qa

q1:前面側の最大地盤反力度(kN/m²)
q2:背面側の最小地盤反力度(kN/m²)
ΣV:全鉛直力(kN/m)
e:偏心量(m) ※この式は e ≦ B2/6 の場合に成立します

許容支持力qaは平板載荷試験やN値からの推定によって設定します。支持力が不足する場合は、底版幅の拡大・根入れ深さの増加・地盤改良を検討します。

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実務で気をつけたいポイント

安定計算の数式そのものより、入力する設計条件の設定でつまずくケースが多くあります。特に次の3点は事前に整理しておくべきです。

項目実務上の考え方
壁面摩擦角 δδ=φ/2〜2φ/3 の範囲で設定。δを大きく取ると土圧の水平成分が減り安定側になるため、根拠を明確にしておく
粘着力 c砂質土では c=0 が基本。粘性土でも安全側の評価として c=0 で計算することが多い
地震時照査擁壁工指針では、高さ8m以下 の擁壁で常時の照査を満足する場合、重要度2であれば地震動に対する照査を省略できるとされている

【注意】水位が高い箇所では浮力と静水圧の考慮が必要です。また、背面地盤自体のすべりが懸念される場合は、擁壁単体の安定計算だけでなく、斜面全体としての安定解析が別途必要になります。設計にあたっては必ず最新版の指針を確認してください。

まとめ

もたれ式擁壁の安定計算は、クーロン土圧で背面土圧を求めたうえで、転倒(e ≦ B2/6)・滑動(Fs ≧ 1.5)・地盤支持力(q1 ≦ qa)の3項目を照査するという流れです。手順自体は重力式擁壁と共通しているため、一度理解しておけば他の擁壁形式にも応用が利きます。

照査がNGとなった場合、多くのケースで底版幅B2の見直しが第一の対策になります。断面を変えながら何度も試算することになるので、計算ツールを活用して効率よく最適な断面を探ってみてください。

参考図書・出典

・日本道路協会「道路土工-擁壁工指針」(平成24年7月)
・日本道路協会「道路土工-切土工・斜面安定工指針」(平成21年6月)
・国土交通省 近畿地方整備局「設計便覧(案)第3章 擁壁」
・国土交通省 中部地方整備局「設計要領 第4章 土工」
・農林水産省「土地改良事業計画設計基準・設計 農道」

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