技術士二次試験(建設部門)の必須科目Ⅰは、毎年「社会が直面している課題」をテーマに論述が求められます。過去10年の出題を分析すると、インフラメンテナンス・担い手不足・防災という3つのテーマが繰り返し出題されていることがわかります。
この記事では、その3大テーマそれぞれについて、背景・数字・国の政策・論文で使える課題と解決策・よくある失敗パターンまで徹底的に解説します。これを読めば、どのテーマが出ても対応できる基礎力が身につきます。
📌 この記事でわかること
- 3大テーマの出題年度と出題頻度
- 各テーマの背景・現状を示す具体的な数字
- 国の政策の流れ(時系列で整理)
- 論文で使える課題の観点・解決策・キーワード
- よくある失敗パターンと対策
はじめに:なぜこの3テーマを押さえるべきか
必須科目Ⅰは2問出題されて1問を選択する形式です。令和元年以降の出題を見ると、この3テーマがほぼ毎年いずれかの問題に登場しています。つまり、この3テーマを押さえておけば、どちらの問題を選んでも対応できる確率が非常に高いのです。
| 年 度 | Ⅰ-1 | Ⅰ-2 |
|---|---|---|
| 令和元年 | 🏗️ 担い手・生産性向上 | 🌊 防災・国土強靭化 |
| 令和2年 | 🔧 インフラメンテナンス | 🏗️ 担い手確保 |
| 令和3年 | 🌊 気候変動・風水害 | 🌿 環境・脱炭素 |
| 令和4年 | 🏗️ DX・生産性向上 | 🌿 カーボンニュートラル |
| 令和5年 | 🔧 インフラメンテナンス第2フェーズ | 🌊 巨大地震・複合災害 |
| 令和6年 | 🏙️ 拠点連結型国土 | 🌊 復旧・復興 |
| 令和7年 | 🏗️ 建設業の担い手・持続的発展 | 未公表 |
🔧=インフラメンテナンス 🏗️=担い手・生産性・DX 🌊=防災・減災
第1章:インフラメンテナンス・老朽化対策
1-1. なぜ老朽化が問題なのか(数字で見る現状)
高度経済成長期(1960〜70年代)に集中整備された社会インフラが、今まさに一斉に老朽化を迎えています。国土交通省の資料によると、建設後50年以上経過する施設の割合は以下の通りです。
| インフラの種類 | 2023年時点 | 2033年(予測) |
|---|---|---|
| 道路橋 | 約39% | 約63% |
| 河川管理施設 | 約42% | 約62% |
| 港湾岸壁 | 約32% | 約58% |
| トンネル | 約27% | 約42% |
| 下水道管渠 | 約8% | 約21% |
わずか10年で、道路橋は「4割」から「6割超」が老朽化します。しかも、これらを維持・更新するための費用は今後急増する見込みであり、財政的な制約がある中でいかに対応するかが最大の課題です。
1-2. 国の政策の流れ
| 時 期 | 政策・出来事 | ポイント |
|---|---|---|
| 2013年 | インフラ長寿命化基本計画策定 | 「予防保全」への転換を宣言 |
| 2014年〜 | 道路橋・トンネルの定期点検義務化 | 5年に1回の近接目視点検 |
| 2018年〜 | 個別施設計画の策定 | 施設ごとの長寿命化計画を策定 |
| 2023年〜 | 第2フェーズへ移行 | 予防保全の「実行・加速」段階へ |
⚠️ 試験対策の重要ポイント
令和5年の出題は「第2フェーズ」です。「点検の実施」「予防保全の導入」は第1フェーズの内容なので、これを解答すると的外れになります。第2フェーズでは「膨大な補修需要にどう対応するか」「どのインフラを残してどれを廃止するか」という踏み込んだ内容が求められます。
1-3. 論文で使える課題の観点
- 財政・コスト面:補修・更新費用の急増と財政制約の両立、トータルコストの縮減・平準化の必要性
- 人材・技術面:点検・診断できる技術者不足、地方自治体の技術力低下、民間委託の課題
- 集約・廃止の判断面:人口減少地域でのインフラの選択と集中、廃止・撤去の判断基準の不明確さ
1-4. 論文で使えるキーワード・解決策
| 分 野 | キーワード・解決策 |
|---|---|
| 予防保全の推進 | 個別施設計画に基づく計画的補修・更新、トータルコスト縮減・平準化 |
| 点検の効率化 | ドローン・ロボット点検、センサー常時監視、AI画像診断 |
| 選択と集中 | 人口動態・利用実態に応じたインフラ集約・廃止・機能転換 |
| 技術者育成 | 地方自治体技術者の育成・支援、包括的民間委託の活用 |
| データ活用 | 点検データのデジタル化・DB化、劣化予測AIの活用、BIM/CIMとの連携 |
1-5. よくある失敗パターン
❌ 失敗例:「定期点検を徹底する」「予防保全を推進する」と書いてしまう
→ これは第1フェーズの内容。令和5年以降の出題では点数になりません。
✅ 正しい方向:「膨大な老朽化施設を財政的・人材的制約の中でどう維持・更新するか」「どのインフラを残しどれを廃止するか」という判断・政策的な視点で書く
第2章:担い手不足・生産性向上・DX
2-1. 建設業の人手不足はどれくらい深刻か
建設業の就業者数はピーク時(1997年)の685万人から2024年には477万人まで減少し、約30%減という深刻な状況です。さらに深刻なのが高齢化で、55歳以上が約37%を占める一方、29歳以下はわずか約12%です。
国土交通省の試算では、このまま新規入職者が増えなければ2030年には400万人を割り込み、2040年には300万人を下回る可能性があると指摘されています。社会インフラの整備・維持管理の需要は増え続ける一方で、それを担う人材が急速に失われているのが現状です。
2-2. 国の政策の流れ
| 時 期 | 政策・出来事 | ポイント |
|---|---|---|
| 2016年〜 | i-Construction開始 | ICT施工・3次元データ活用の推進 |
| 2019年〜 | 働き方改革関連法 建設業適用 | 時間外労働の上限規制(2024年完全適用) |
| 2021年〜 | 建設業DX推進 | BIM/CIM・電子小黒板・遠隔臨場の普及 |
| 2024年6月 | 担い手3法改正 | 処遇改善・適正工期・週休2日を法的に推進 |
| 2027年度〜 | BIM/CIM本格導入予定 | 3Dモデルを契約図書として義務化 |
2-3. 論文で使える課題の観点
- 人材確保面:若者・女性の建設業離れ、3Kイメージの払拭、入職者数の継続的減少
- 技術継承面:熟練技術者の大量退職、暗黙知のデジタル化・継承困難
- 生産性・デジタル化面:アナログ業務(紙図面・手作業測量)の非効率、中小建設業のDX導入コスト・人材不足
2-4. 論文で使えるキーワード・解決策
| 分 野 | キーワード・解決策 |
|---|---|
| ICT施工 | ドローン測量・3D-MG(マシンガイダンス)・自動化建機の活用 |
| BIM/CIM | 3Dモデルによる設計・施工・維持管理の一元化 |
| デジタル化 | 電子小黒板・遠隔臨場・AI検査・データ共有プラットフォーム |
| 処遇改善 | 適正な設計労務単価の反映、週休2日工事の標準化、社会保険加入徹底 |
| 人材育成・確保 | 女性・外国人材の活躍推進、インターンシップ・出前授業、資格取得支援 |
| 発注改善 | 適正工期の設定、平準化発注、余裕期間制度の活用 |
2-5. よくある失敗パターン
❌ 失敗例:「人材を増やす・確保する」方向の解決策だけを書いてしまう
→ 担い手不足のテーマでは「今後、人が増えることは期待しにくい」という前提が必要です。
✅ 正しい方向:「少ない人数でも現場を回せるよう省力化・自動化・効率化する」施策を中心に書く。DXで生産性を上げることが処遇改善→業界イメージ向上→入職者増加にもつながるという一体的な視点を持つ
第3章:防災・減災・国土強靭化
3-1. なぜ毎年出題されるのか
日本は世界有数の自然災害大国です。国土面積は世界の0.28%に過ぎませんが、マグニチュード6以上の地震は世界の約20%、活火山は約7%が集中しています。さらに近年は気候変動の影響で豪雨・台風が激甚化・頻発化しており、毎年のように大規模災害が発生しています。
2011年の東日本大震災を契機に「国土強靭化基本法」が制定(2013年)され、その後も継続的に強化されています。2026年4月には防災庁が内閣直下に設置され、同年度から第1次国土強靭化実施中期計画(2026〜2030年度・約20兆円強)がスタートしました。国が最も力を入れている分野のひとつであり、試験でも継続的に問われます。
3-2. 国の政策の流れ
| 時期 | 政策・出来事 | ポイント |
|---|---|---|
| 2013年 | 国土強靭化基本法制定・基本計画策定 | 「強靭な国土」づくりの法的根拠 |
| 2021〜2025年 | 防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策 | 約15兆円規模で集中投資 |
| 2021年〜 | 流域治水関連法整備 | 河川・農地・都市が連携した治水対策 |
| 2026年4月 | 防災庁設置 | 防災対応の司令塔を内閣直下に設置 |
| 2026〜2030年 | 第1次国土強靭化実施中期計画 | 約20兆円強・114の施策を集中実施 |
3-3. 論文で使える課題の観点
- 技術・構造面:老朽化インフラの耐震性・耐水性不足、ハード整備の限界(想定を超える外力への対応)
- 人材・体制面:災害対応を担う技術者・地域建設業の担い手不足、技術継承の困難さ
- 財政・計画面:防災投資の財源確保、維持管理コストとの両立、優先順位付けの難しさ
3-4. 論文で使えるキーワード・解決策
| 分 野 | キーワード・解決策 |
|---|---|
| ハード対策 | 堤防強化・護岸整備・橋梁耐震補強・盛土安全対策・多重防御体制の構築 |
| ソフト対策 | ハザードマップの高度化・タイムライン防災・土地利用規制・移転促進 |
| 流域治水 | 河川・ダム・ため池・農地・都市が連携した流域全体での治水対策 |
| グリーンインフラ | 自然の力を活用した防災(湿地・森林・砂浜の保全・再生) |
| デジタル活用 | センサー・AI・衛星データによるリアルタイム監視・防災DX |
| 復旧・復興 | BCP策定・迅速な復旧体制の整備・地域建設業の維持 |
3-5. よくある失敗パターン
❌ 失敗例:「堤防を強化する」「橋梁を耐震補強する」などハード対策だけを書いてしまう
→ 必須科目Ⅰでは「多面的な観点」が採点基準です。ハードだけでは点数が伸びません。
✅ 正しい方向:ハード・ソフト・人材・財政・DXなど複数の視点から課題を抽出し、それぞれに対応する解決策を示す。「流域治水」「グリーンインフラ」「防災DX」など最新の概念を絡めると高評価につながる
第4章:3テーマに共通する論文の書き方
4-1. 3テーマをまたぐ横断キーワード
3つのテーマは独立しているようで、実は深く連動しています。以下のキーワードは複数のテーマにまたがって使えるため、しっかり理解しておくと応用が利きます。
| キーワード | インフラメンテナンス | 担い手・DX | 防 災 |
|---|---|---|---|
| DX・デジタル化 | AI点検・センサー監視 | ICT施工・BIM/CIM | 防災DX・リアルタイム監視 |
| 人口減少 | インフラの選択と集中 | 担い手不足の根本原因 | 地域の守り手の減少 |
| 気候変動 | 設計基準の見直し | 異常気象下の施工管理 | 激甚化する災害への対応 |
| 地域建設業 | 維持管理の担い手 | 中小建設業のDX遅れ | 災害時の地域の守り手 |
4-2. 解答の「型」の使い方
必須科目Ⅰの問いの構成はほぼ毎年同じです。この「型」を頭に入れておけば、どのテーマが出ても迷わず書けます。
- 課題を3つ抽出する(多面的な観点で)
技術面・人材面・財政面など、異なる観点から課題を3つ挙げる。同じ観点から3つ出すのはNG。 - 最重要課題を1つ選び、複数の解決策を示す
なぜその課題が最も重要かを論理的に説明し、具体的な解決策を2〜3つ提示する。 - 波及効果と懸念事項・対応策を述べる
解決策を実行した場合の「次に期待できること(波及効果)」と「新たに生まれるリスク(二次リスク)」を書く。 - 技術者倫理・社会持続性の観点から述べる
公衆の安全・環境への配慮・持続可能性の視点から、技術者として必要な要件を述べる。
まとめ:3テーマの優先順位と勉強の順番
STEP 1|防災・減災から始める
出題頻度が最も高く、ほぼ毎年出題されています。まずここから知識を固めましょう。流域治水・グリーンインフラ・防災DXまで押さえれば、どんな切り口でも対応できます。
STEP 2|担い手・DXを押さえる
2〜3年に1回の出題ですが、令和7年にも出題されており今後も重要です。「人を増やす」ではなく「省力化・効率化」の視点で整理しましょう。担い手3法改正(2024年)の内容も確認を。
STEP 3|インフラメンテナンスは「第2フェーズ」で整理
第1フェーズと第2フェーズの違いを明確に理解することが最重要。選択と集中・AI点検・トータルコスト縮減のキーワードで整理しましょう。
次回の記事では、「担い手不足」テーマについて、論文で使える知識をさらに深掘りしてまとめます。
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