地震時の安定計算とは?直接基礎・擁壁で常時と何が変わるのか

地震時の計算は、難しく見えて、考え方はシンプルです。常時の計算に「地震の力」を足して、その代わり判定の基準を少しだけ緩める。基本はこれだけです。この記事では、直接基礎と擁壁を例に、地震の力の置き換え方、設計水平震度の決め方、レベル1とレベル2の違いを、順番に整理します。

1. 地震の力は「横向きの力」に置き換える

地震の揺れを、構造物の重さWに設計水平震度khをかけた横向きの力(kh×W)に置き換える図

設計では、地震の揺れを「構造物の重さ W に設計水平震度 kh をかけた、横向きの力」として扱います。これが慣性力(kh × W)で、このやり方を震度法といいます。複雑な揺れを、一定の横向きの力に置き換えるので、常時と同じ安定計算の流れで検討できるのが利点です。

擁壁の場合は、擁壁の自重だけでなく、背面の土(土くさび)の重さにも、それぞれ設計水平震度をかけて水平力を求めます。この水平力を使って、転倒・滑動・支持力の照査を行います。

2. 設計水平震度(kh)の決め方

設計水平震度は、擁壁の場合、「道路土工-擁壁工指針(平成24年度版)」で次の式によって決めます。

kh = cz × kh0(小数点以下2桁に丸める)

  • kh0:設計水平震度の標準値です。地盤の種類(Ⅰ種〜Ⅲ種)と、地震動のレベルによって決まります。
  • cz:地域別補正係数です。地域ごとに定められた値で、たとえば宮城県の擁壁設計要領では1.0としています。

標準値 kh0 は、次の表のとおりです。

地震動のレベルⅠ種(硬い地盤)Ⅱ種Ⅲ種(軟らかい地盤)
レベル1地震動0.120.150.18
レベル2地震動0.160.200.24
※道路土工-擁壁工指針(平成24年度版)の標準値です。

実際の手順は、次の5ステップです。

  1. 地盤種別を決める:地盤の特性値TG(N値などから求めます)で、Ⅰ種(TG<0.2)、Ⅱ種(0.2≦TG<0.6)、Ⅲ種(0.6≦TG)に分けます。
  2. 地震動のレベルを決める:レベル1で照査するか、レベル2で照査するかを決めます(次の節で解説します)。
  3. 標準値 kh0 を表から読む:地盤種別とレベルの交点の値を読み取ります。
  4. 補正係数 cz をかける:kh0 に地域別補正係数をかけ、小数点以下2桁に丸めます。
  5. 水平力を求める:擁壁の自重と背面の土くさびの重さに、それぞれ kh をかけます。

たとえば、Ⅱ種地盤・レベル1・cz=1.0の場合、kh = 1.0 × 0.15 = 0.15 です。擁壁の自重が1mあたり100kNなら、慣性力は 0.15 × 100 = 15kN/m になります。同じ条件でレベル2なら、kh = 0.20 で、慣性力は 20kN/m です。

3. レベル1とレベル2とは?意味と違い

耐震設計では、想定する地震の揺れを2段階に分けて考えます。それがレベル1地震動とレベル2地震動です。

項目レベル1地震動レベル2地震動
意味供用期間中に発生する確率が高い地震動発生する確率は低いが、大きな強度をもつ地震動
イメージ構造物の寿命のうちに、何度か起こりうる地震めったに起きないが、起きれば被害の大きい大規模な地震
橋の目標性能
(道路橋示方書)
耐震性能1:橋の健全性を損なわない耐震性能2:損傷を限定的にとどめ、速やかに機能を回復できる
耐震性能3:落橋などの致命的な被害を防ぐ
擁壁の標準値 kh0
(Ⅱ種地盤)
0.150.20

つまり、レベル1は「よく起こる地震で、構造物が傷まないか」を確認する検討、レベル2は「めったに起きない大地震でも、致命的な被害を出さないか」を確認する検討です。当然、レベル2の方が設計水平震度は大きくなります。上の表のとおり、擁壁の標準値では、同じ地盤種別でレベル2のほうが約1.3倍大きい値です。

なお、橋の設計では、レベル2地震動をさらに「タイプⅠ(プレート境界型の大規模な地震)」と「タイプⅡ(内陸直下型の地震)」に分けて設定します。古い基準書では、レベル1を「中規模地震」、レベル2を「大規模地震」と呼んでいたので、古い資料を読むときは、この呼び方の違いに注意してください。

どちらのレベルで照査するかは、構造物の種類、重要度、発注者の基準によって変わります。必ず、該当する指針と発注者の仕様書で確認してください。

4. 常時と地震時で変わる3つのこと

  1. 荷重が増える:構造物の慣性力に加えて、擁壁などでは土圧が地震時の値に変わります。
  2. 合力の位置がずれる:横向きの力が増えるので、荷重の合力が底面の中央から外れ、偏心が大きくなります。
  3. 判定の基準が緩む:地震はめったに起きないので、常時と同じ厳しさでは不経済になります。

当サイトの直接基礎ツール(道路橋示方書H24の許容応力度法ベース)では、判定値は次のとおりです。

項目常時地震時
偏心量 eB/6 以内B/3 以内
滑動安全率1.5 以上1.2 以上
許容鉛直支持力qa常時の1.5倍(上限)
※B は底版幅です。

5. 直接基礎:転倒・滑動・支持力の3点セット

直接基礎では、地震時も「転倒(偏心量)」「滑動」「鉛直支持力」の3つを照査します。地震時は水平力が増えるため、まず効いてくるのは偏心量と滑動です。偏心が大きくなると、荷重を受ける底版の有効幅が小さくなり、支持力の照査も厳しくなります。数字が合わないときは、底版幅を広げるのが基本の対応です。

6. 擁壁:ポイントは「地震時土圧」

擁壁では、背面の土が地震で押す力(地震時土圧)が最大のポイントです。算定には物部・岡部の式や試行くさび法が使われ、具体的な手順と判定値は「道路土工-擁壁工指針」で確認します。設計水平震度は、2節の方法で決めた値を使います。

なお、地震時の安定検討は、すべての擁壁で行うわけではありません。たとえば宮城県の擁壁設計要領では、高さ8mを超える擁壁や、重要度・難易度を考慮して必要な場合に行うとされています。発注者ごとの基準を確認しましょう。

当サイトのもたれ式擁壁の安定計算ツールは、常時のみの検討で、地震時は考慮していません。地震時は別途、指針に沿った検討が必要です。

7. 注意:どの年の基準書で計算するかを確認する

道路橋示方書は、国土交通省が2025年8月に改定しました。2026年(令和8年)4月1日以降に新たに着手する設計から、新しい示方書が適用されます。基礎地盤や橋台背面も橋の構成要素として位置づけられるなど、下部構造の考え方も整理されています。

つまり、同じ直接基礎の計算でも、設計に着手した時期によって、使う基準書が「平成24年の示方書」「平成29年の示方書」「令和7年の示方書」と変わります。計算書を作るときは、どの年の基準書に基づいて計算したかを必ず確認し、計算書にも書いておきましょう。

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※本記事は一般的な考え方の解説です。実際の設計では、必ず最新の基準書・発注者の仕様で確認してください。

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